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【 イベントレポート 】

『水族館プロデューサー中村元 presents 中村元の超水族館ナイト2016秋 ~命のリアルを伝えたい!~(vol.25) 』ライブレポート(16.10/02開催)

2016年11月24日

 

リアルを伝える技術

 
さて、生き物のリアルを理解できたとします。次にどうするか?

画家が理解したものをキャンバスという限られた平面に様々な絵画技法を駆使して表現するのが絵画であるならば、限られた空間に様々な展示技術を駆使して水中のリアルを表現するのが水族館の水槽展示ということになります。実物大の風景画が無いように、本物そっくりに擬岩を作って水槽に沈めても海の中にある岩には全く見えないのだそうです。絵画同様、水槽でリアルを表現するためには様々なワザが必要で、ここが水族館プロデューサーや展示係の腕の見せ所と言えます。もちろん色も大事。

中村さん
「海や川の本当の色は緑、それもちょっと汚い感じの緑色なんです。だからといって水槽を本当の海や川の色にしてもお客さんは見向きもしてくれません。なぜなら僕ら日本人は水は水色、海は青いと思っているからね。お客さんが心地良く ”水” を感じてくれる青を作ってあげるんです。」

サンシャイン水族館にはサンシャインラグーンという中村さんが手がけた水中感&浮遊感に溢れた水槽ががあります(中村さんの言葉でこれを「水塊」と表現します)。実は非常に狭い水槽なのですが、奥に向かって傾斜をつけてみたり、5m先の岩が20m先にある岩に見えるように擬岩の造りをわざと大雑把にボカして暗い色をつけたり、様々な工夫が施されていて、あたかも海の中に潜っているかのような広さ、奥行きを感じる水槽となっています。そして、色は美しいターコイズブルー。
 

サンシャインラグーン
サンシャインラグーン

 
水槽展示における魚はお客さんに「水塊」を感じさせる大事な役者。海や川の中で流れ向かって泳ぐ躍動感を水槽の中でも再現しなければならず、そのために水槽内に流れをつけたり、こちらも様々な工夫しているとのことでした。

水槽展示ができたらその水槽が一番見やすいようにしてあげなければなりません。美術館の壁は絵が見やすいように白で統一されていますが、水族館の場合は壁を黒にすると最も水槽が美しく映えて見えるとのこと。

このようにして水族館は作られていくべきものなのだそうです。
 

「僕にとって水族館展示は作品みたいなもの」と中村さん
命のリアルとは

 


ケーススタディ

中村さんがこれまでにプロデュースした数々の「リアルを伝えるの展示」の中から、新江ノ島水族館の事例を紹介してくれました。

■相模湾大水槽のイワシの大群

水族館で円筒形の回遊水槽を整然とグルグル回っているイワシの展示を見たことがある人は非常に多いのではないでしょうか?でも、実際の海ではあのようには泳いでいません。弱い魚であるイワシは身を守る為に大きな群れを形成します。その大きな群れは天敵から逃げようとしたり、強い海流に流されそうになったり、ダイナミックにその形を変え、しかも、それがキラキラとしてとても美しい。今では色々な水族館で見られるイワシのトルネードですが、最初に行ったのは新江ノ島水族館(つまり中村さん)。水槽内に数千匹ものイワシを入れ、天敵を共生させることで水槽の中にイワシの自然でのリアルな姿を実現させました。

■川魚のジャンプ水槽

こちらも中村さんプロデュースした世界初の展示。日本淡水魚は非常に地味であることから水族館ではなかなか注目してもらえません。でも、魚がジャンプして遡上している姿ならみんな興味を持つだろうし、それが川魚のリアルな姿でもある…という趣旨で企画されました。水槽の水位が下がると水槽内の岩組の所々に小さな滝が出現し、その滝に向かって魚たちが遡上していきます。逆に水位が上がると魚は安心して深いところ(下流)へ戻っていく…。魚がジャンプをするのはどんな時か?どうすればその姿をお客さんに見せることができるか?中村さんと飼育スタッフが実証実験を繰り返しながら実現へと至った行動展示でした。
 

中村さんのトークに聞き入る客席。
熱心にメモを取る学生さんの姿も。
中村さんのトークに聞き入る

 
中村さん
「僕はいつも皆さん『俺、魚の事知らんから』って言ってますけど、それは魚の種類とか見分け方とかを知らないというレベルの話であって、彼らがどんな暮らしているのかについては凄く興味があるんです。水族館はそのリアルな姿を見せる場所であって、そのために一つ一つ積み重ねて展示を作っていくんです。」

中村さんの斬新な展示手法はよく ”中村マジック” と呼ばれますが、それはいきなりポッと出てきた奇想天外なアイデアというワケではなく、命のリアル見せるにはどうしたら良いか理論的に突き詰めていった結果として辿り着いた ”展示の理想形” と言えるものでした。そんな中村さんの「命のリアルを伝える」展示から今後も目が離せません。