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【 イベントレポート 】

水族館プロデューサー中村元 presents 『中村元の超水族館ナイト2018夏 〜ラッコの道標〜(vol.30) 』ライブレポート(18.06/17開催)

2018年09月25日

【 後半の部(第二部)より 】

 

休憩を挟んで始まった後半の部、ついに岡野薫子先生がステージへ!

 

■ 岡野薫子先生

 

児童文学作家・岡野薫子先生
御年89歳!元気です!

岡野薫子先生

 

前半のトークでも触れたように鳥羽水族館にラッコが来ると決まった時、中村さんも含めた鳥羽水族館のスタッフの誰もがラッコのことを知りませんでした。

中村さん
「だからまずラッコのことを調べなくちゃいけない。でもラッコのことが書かれた本が当時は全くなかったんです。そんな中で探して探して探してやっと見つけたのが岡野先生が書かれた『銀色ラッコのなみだ』でした。」

岡野先生は、子供の頃から映画や映像の世界に強い関心を持ち、また動物も大好きだったそうです。そんな岡野先生はまずスライド制作者として活躍します。

岡野先生
「教育スライドと呼ばれる幻燈機で映す小・中学校向けの補助教材ですね。その企画立案・脚本・編集をしていました。最初に作ったスライドは 『漁獲法の歴史』 でした。勇魚取絵詞(いさなとりえことば)という江戸時代の書物を引用してスライドを作ったら凄く珍しがられたり驚かれましたね。」

生物については徹底的に調べたり観察するのが信条という岡野先生。当時から異彩を放っていたようです。

その後、映画の世界へと進み、科学映画のシナリオライターとして数々のコンクールで受賞するなど活躍。代表作に「クモの糸」「受胎の神秘」「花と昆虫」…等々。

岡野先生は映画を作る際に随所に文章を入れ、内容が分かりやすいように工夫していたそうですが、その高い文章力が評価され、ある人から 「本を書いてみてはどうか?」 と薦められたそうです。そして、書き上げたのが児童文学作家としてのデビュー作 『銀色ラッコのなみだ』 でした。以来、100冊以上の著書を世に送り出し続けてきました。

 


 

中村さんも驚いたラッコの描写力!?

鳥羽水族館井ラッコがやってきて以来、映像に収めたり、写真を撮ったり、日々ラッコの観察を続けた中村さんは、岡野先生の『銀色ラッコのなみだ』が実に正確にラッコの動きを描写していることに驚きます。というのも、岡野先生が執筆していた当時は日本にはラッコはいなかったのです。

中村さん
「だから僕、聞いたんです。『先生はアラスカに行ってラッコを見てきたんですか?』って。そうしたら『(実物を)見ていない』って言うのよ!(笑)」

客席:!?!?(どよめく)

そもそも岡野先生はどのようにしてラッコという動物を知ったのか?

岡野先生
「『銀色ラッコのなみだ』を書く少し前に、私はシロナガスクジラに興味を持っていました。それでクジラのことを一生懸命調べていたら友達が『海獣』という本を貸してくれたんです。そこにラッコのことが載っていたんです。読んでいくと『陸に上がった恐ろしい顔つきの姿のラッコ』という挿絵があって、ところが、ページを捲るとラッコの(愛嬌のある)仕草の絵も載っていました。そのギャップに大きさに惹かれまして、気づくとクジラよりラッコのことを夢中になって必死に調べ始めていました(笑)」

 

岡野先生のラッコとの出会い。
非常に古い本です(1943年に初版発行)
岡野先生が初めてラッコを知った本

 

「陸に上がった恐ろしい顔つきのラッコ」
として載っていた挿し絵

陸に上がった恐ろしい顔つきのラッコ

 

頁をめくるとラッコの可愛らしい仕草の絵
このギャップ萌えが岡野先生の琴線に触れた
海でのラッコのしぐさを表した絵

 

その後は、国内で閲覧可能な僅かな数の資料を集め読み漁り、同じ ”獺(うそ)” の仲間なら共通点があるはずとデパートの屋上で飼育されていたカワウソを見に行って細かな観察を繰り返し、リアルなラッコを見ずしてリアルなラッコを描いてしまったのが『銀色ラッコのなみだ』でした。

中村さん
「30年以上前にも 『よくここまで書けたなあと』と感心したんだけど、今、改めて読んでみるともっと感心する。先生、凄いです!』

岡野先生
「ありがとうございます!(笑)」

余談ですが、岡野先生はラッコの調査の過程で、水産研究所のエントランスに展示されていたラッコの剥製見たそうです。

岡野先生
「それが凄い巨大だったの!ラッコの毛皮ってダブダブとしているでしょ? きっとそれを知らない人が毛皮をパンパンに膨らませて剥製にしちゃったんですね(笑)」

そのせいかラッコを始めてみた人の殆どの人が 「大きい!」 と驚くのに

中村さん
「岡野先生だけがラッコを見た瞬間に「あら、小さいのね」と言ったんです(笑)」

客席:(笑

 


 

岡野先生の絵の紹介

一番最初に出版された 『銀色ラッコのなみだ』 では岡野先生は文章の執筆のみで、挿絵は他の方が描いていたのですが、「私、なんでも自分でやらなきゃ済まない性格なの!」 と語る岡野先生はやがて表紙や挿絵も自分で描くようになりました。そんな岡野先生の絵をスクリーンに映して紹介するコーナー。鳥羽水族館のラッコたちを描いた絵も多いので、当時のエピソードも同時に伺っていきました。いくつか抜粋して紹介します。

 

少ない線数でラッコの可愛いらしさを表現
岡野先生の絵(1)

 

ここからはスクラッチ画(ひっかき絵)
岡野先生の絵(3)

 

中村さん
「イカを持っているということは水族館のラッコですね。しかもゲソがついていないイカを野生のラッコが持っとるワケがない!(ニヤリ)」

岡野先生
「あはは。そうですね。見破られてる(笑)」

 

 

「銀色ラッコのなみだ」の1シーン。
猟銃に狙われたラッコが逃げ惑う。
岡野先生の絵(4)

 

左が「銀色ラッコのなみだ」より
エスキモーの少年ピラーラ親子。
右は鳥羽水族館のコタロウを描いたもの。
岡野先生の絵(6)

 

旧鳥羽水族館のラッコプールより
岡野先生の絵(7)

 

上の絵の左側は水中に潜って掃除をしようとした飼育係にイタズラを仕掛けて遊ぶラッコの様子。コタロウは非常に好奇心旺盛で水中の岩を動かしたり、小石を打ち付けて防水槽に穴を開けたり、超わんぱくな性格だったそうです。そして右側は、

中村さん
「コタロウが窓の外を眺めている様子です。窓の外を走る電車は近鉄志摩線の各駅停車です(笑)。」

コタロウはしばしばこうして窓の外を見ていたそうで、岡野先生はこの絵に 「ラッコは悲しからずや」 というキャプションを付けたと言います。動物園のラッコたちを見て  「可愛い」 だけではなく 「可哀想だな、アラスカに帰りたいんじゃないかな?」 との想いがあったそうです。

 

ラッコと一緒に岡野先生自身も絵に登場。
(中央のベレー帽の女性が岡野先生)
岡野先生の絵(8)

 

中村さん
「先生の左隣でカメラを構えているのが 35年前の僕です!」

岡野先生
「え~~っ?そうですかぁ~?」

中村さん
「そうです、僕です!僕ですってば!」

客席:(笑)

カメラを構える男性が中村さんかどうかはさておいて、絵をよく見ると展示場側には飼育係の足が描かれています。岡野先生は意味があって飼育係の足をも描いたとのこと。お客さんや飼育スタッフに四方八方から人に見られてラッコは心休まる時がない。

岡野先生
「ずっと人に見られているのは動物にとってすごく疲れると思うのよね。とても可哀想。」

そんな想いでこの絵を描いたそうです。

 

右の絵は隣の展示場にいるチャチャと
遊びたくて仕方ないコタロウの様子
岡野先生の絵(9)

 

上の絵の左側は母親のラッコが時々パニックを起こし、赤ちゃんラッコを連れて水中に潜って逃げる時の様子を克明に描いたもの。母親ラッコは子育て中に展示場の天窓に鳥の姿を見かけると、しばしばこのような行動を起こすのだとか。「恐らくラッコの仔を襲う猛禽類などから守ろうと母親が本能的に水中に避難するのではないか」と中村さん。岡野先生もその様子を非常によく観察していて、このような絵に残していました。

 

コンテで描いたラッコ。
ラッコのやわらかさが感じられる。
岡野先生の絵(10)

 

以上、岡野薫子画伯のコーナーでした!
岡野先生の絵(11)

 

「銀色ラッコのなみだ」 をはじめ、「ラッコのコタロウ(1984)」 「いたずら子ラッコ チャチャとコタロウ(1985)」 「わんぱくラッコげんきなコタロウ(1986)」 「ふたごのラッコ(1987)」 … 等々、岡野先生の書いた数々の作品は、単にラッコが登場するだけのを物語ではありません。

中村さん
「さっき楽屋で『銀色ラッコのなみだ』を久しぶりに読んでいたのですが、大人が読んでも十分読みごたえがある。そして、ラッコをはじめとする野生動物が人間のエゴで商業的に使われることが悲しい、嫌だというメッセージがしっかり伝わってきます。」

岡野先生
「私の子供時代、祖父が着ていた外套の襟にラッコの毛皮が付いていたんですね。エスキモーやイヌイットの人たちは本当に毛皮を必要としています。でも私たちは毛皮はなくても良いじゃないですか?イヌイットやエスキモーの人たちはラッコを獲っても最小限度でしたからバランスが保たれていたんです。それが文明人が飾りのために乱獲し始めてしまった。人間の欲望のために1000頭単位の群れでいたラッコがドンドン減ってしまった。なんとかならないかなと思いながら物語を書きました。」

 

著書を手に作品に込めた思いを語る
著作を手にトークをする岡野先生