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【 イベントレポート 】

多田将 presents 「『兵器の科学』シリーズ立ち上げ記念イベント」ライブレポート(20.09/05開催)

2020年10月12日

第1巻『弾道弾』のダイジェスト

 

休憩を挟んで後半の部では、『兵器の科学』シリーズの記念すべき第1弾となる 『弾道弾』の内容容について、今度は目次だけでなくグラフや表もスクリーンに映しながらのダイジェスト授業を行ってくれました。本記事では物理学の解説までは書ききれないので、詳しくは発売後に本を精読して頂くとして、ここではこの日紹介されたトピックの中から個人的に興味を惹かれたものをいくつか抜粋して載せています。

 

~~ あの国の発射実験も理解できる(第2章より)~~

弾道弾について技術的に書かれた本はやはり少ないそうですが、

多田さん
「それらの数少ない本も実は間違っていたりするんですね。一番多い間違いが『放物軌道である』なんて書かれていたりする。これが成り立つには2つの条件を満す必要があるんです。」

その2つの条件とは

・地球は平らであること
・高さによって重力が変わらないこと

多田さん
「地球の半径6,400kmに対して弾道弾の高度は1000kmを超えていきます。これだと放物線軌道にはならないんですね。『放物線を描く』と解説している本の著者は  『自分では計算してません』と言うことを自ら告白しているようなものです!…と、この本の中で早速ディスってます!(笑)」

客席:(笑)

多田さん
「それをキチンと計算して正していこうというのがこのシリーズの趣旨です!」

…というワケで、まずはその ”軌道” の話から。

 

ケプラーの法則を元に弾道弾の軌道を算出。
地球の中も含めた楕円軌道となる。
弾道弾の軌道

 

計算のモデルして、
テイコヴォ(第54親衛ロケット師団)から
ペンダゴン(アメリカ国防省)をターゲットに
発射する場合を扱う(例えが怖い:笑)
弾道弾の計算例

 

まず、基本となる 最小エネルギー軌道 での軌道・発射角度・最高高度・到達時間等を求めていきます。グラフを作成するために使用する数式は全て付録にまとめられているので、自分の手で計算しながら読み進めることも可能。

 

最小エネルギー軌道における
射程距離と到達時間のグラフ。
テイコヴォからペンダゴンまでの約28分。

グラフを示しながら解説

 

多田先生
「冷戦時代に地球は30分で滅ぶと言われていた所以はコレなんですね。28分以内に 1)発射を探知して→2)最高司令官が迎撃するかどうかを判断して→3)迎撃隊を準備して→4)迎撃を行う までいかないと国がなくなってしまうんです。」

個人的に手を動かして計算してみたいと思ったのが、最小エネルギー軌道ではない場合における飛距離と最高高度からの最大射程の算出。分かりやすい事例として、北朝鮮は国土が狭いために弾道弾の発射実験を行う場合はロフテッド軌道(通常よりも角度を上げて高く打ち上げる方法)で行われることが多く、テレビや新聞のニュースでは「北朝鮮が発射した飛翔体は高度○○km、発射地点から落下地点までの水平距離が1000kmで、もし最小エネルギー角度で発射した場合の射程距離は○○kmである」との報道がなされます。この章を理解すれば、それを自分の手元で計算して確かめることができるそうです。また到達高度の低いディプレスト軌道も興味深い。地を這うような低い軌道は非常大きなエネルギーを要しますが、敵に発見されにくく防空網を突破しやすいことや、飛行距離が短ので飛行時間も短い等、戦術上の利点もあるそうです。

 

ロフテッド軌道とディプレスト軌道
ロフティッドとディプレスト

 

 

ロフテッド軌道で最高高度4000km、
飛距離1000kmを達成した弾道弾の
最小エネルギー軌道での射程は

約7000kmであることが計算で求まる。

 

~~ ロケット工学を基礎から(第3章より) ~~

弾3章は 推進方法 について。液体推進剤を使用するものをロケットエンジン、固体推進剤を使用するものをロケットモーターと呼ぶそうで、それぞれの諸元についての解説がされています。大陸間弾道弾に関しては、現在その多くが固体推進剤を使用しているそうで、技術の進化により HMX(シクロテトラメチレンテトラニトラミン ) つまり ”爆薬” の類まで使われるようになっているそうです

多田さん
「ちなみに ”HMX” が何の略なのかは誰も正解を知らないのですが、主に3つの説あって、High Melting eXplosive(高融点爆薬)、 High-velocity Military eXplosive(高速軍用爆薬)、それともう一つが His/Her Majesty’s eXplosive(陛下の爆薬)だそうです。」

客席:(笑)

『兵器の科学』シリーズは ”読み物” としての側面もあるので、あるのでこのような トリビア的なこと もきっとたくさん本に書かれていることでしょう。(個人的な期待です:笑)

 

ロケットエンジンについて。
カットモデルをスクリーンに
映しながら
仕組みを説明してくれました。

液体ロケットエンジン

 

液体燃料と酸化剤をポンプで吸い出してノズルに噴射していますが、ノズルの周囲には小さな穴が見えます(上のスライドの両サイドの写真参照)。これは再生冷却といって燃やす前の燃料や酸化剤を流すことでノズルを冷却しているのだとか。(気になる人は要チェックですね…)

多田さん
「ねっ、結構大胆なことをしていて面白いでしょ?」

ちなみにスライドのカットモデルが展示されているサンクトペテルブルクの博物館へは、多田さんと小泉悠さんが計画中の来年(2021年)ロシアツアーにて訪問を計画しているそうです。

ところで、ロケットエンジンのノズルはスロート(管の断面積が最小になる部分)で絞られた後に末広がりとなる形状していますが、ベンチュリ効果(流体に対し断面積を狭めて流速を増加させると圧力が低い部分が作り出される現象)に基づけは 「さらに断面積を小さくしたが良いのでは?」との疑問を持つ人もいるのでは? …が、それは亜音速での話。

多田先生
「マッハ1を超えるとノズルは広げた方が速くなるんですね。その理由もちゃんと本の中で解説してあります!」

 

スロートの先に断面積を徐々に広げた
末広タイプのノズルを付けると
超音速の噴流が得られる。

ノズル断面積について

 

『弾道弾』のクライマックス!発射と再突入(第4章より)

第4章は難解とされる弾道弾計算の核心部分=「発射と再突入」について。特に再突入に関する部分は非常に読み応えがありそうです。再突入では急激な空気抵抗を受けるので、その影響を正しく見積れないと落下地点の予測も立たなくなり、もはや射程が意味をなさなくなってしまいます。

 

弾道弾の質量と面積、
抗力係数から求まる

”弾道係数” が重要な意味を持つ
再突入の解説

 

多田さん
「本の中では再突入時にどのような軌道を描くかを計算しています。これも載っている本は殆どないですね。」

 

再突入体の高度の時間変化。弾道係数が
・実線:10,000[kg/m^2]の場合と
・点線:1,000kg[kg/m^2]の場合の比較。
後者は地表付近で大きく失速している。
”鋭い弾頭”を使うことが非常に重要。

 

サイロの破壊のための重要なファクターの一つに平均誤差半径(ミサイルの弾頭の半数が目標の中心からどれぐらいの円の半径内に着弾するかを表す値)が挙げられます。

多田さん
「サイロを破壊(通常34MPaが圧力が必要とされる)しようにも、この平均誤差半径が500mにもなってしまうと半分も破壊できなくなってしまう。なので、大きな核出力の弾頭1発を撃ち込むよりも、核出力は小さくとも複数の弾頭をいっせいにバラ撒いて命中精度を上げた方が効率が良いワケです。その攻撃方法の一つがコレ( ↓ )です。」

 

MIRV(ひとつの弾道弾に
複数の弾頭を装備したもの)など。
分割弾頭

 

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