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【 イベントレポート 】

水族館プロデューサー中村元 presents 『中村元の超水族館ナイト2021春 〜ヒレアシ語を話せる素質〜(vol.38)』ライブレポート(21.02/27開催)

2021年05月28日

2.”お荷物” と呼ばれた3頭のアシカたち

 

先述の通り中村さんは3年間という期限付きの飼育係でした。

中村さん
「アシカ班の先輩トレーナーから見たら、オレなんて色々教えたところで3年経ったらいなくってしまう腰掛けの人員。要はアシカ班の ”お荷物” だったんです。」

そんな中村さんが担当を命じられたのが、それぞれ ”ワケ有り” でショーに使うことのできない3頭のアシカたち でした。

中村さん
「先輩たちに『お前もお荷物やし、このアシカたちもお荷物やからお前が育てろ』と言われました。」

1頭は鳥羽水族館で生まれのメスのカリフォルニアアシカで名前はロン。なぜか ”輪っか” を極端に怖がった。

中村さん
「アシカが輪っかを怖がっていたらショーの定番とも言える輪投げキャッチや輪くぐりジャンプといった種目ができない。さらに悪いことにアシカ班の先輩トレーナーたちがロンの苦手を克服させようとプールいっぱいに大量の輪っかを投げ込んで慣らそうとしたのね。そうしたら余計にパニックを起こしてしまって、ますます輪っかが嫌いになってしまった。輪っかを持っている人を見かけただけで逃げるようになってしまったんです。それでロンは『使い物にならない』と僕のところにやって来きました。」

”超” 輪っか恐怖症となってしまったロンですが、逆に棒状のもので遊ぶのは大好きだったそうで、ポールを見つけると得意げに鼻の上で立てて遊んでいたそうです。それを見た中村さんはある奇策を閃きました。

中村さん
「騙しのテクニックや!(ニヤリ)」

ロンが遊んでいるポールと同じ色、同じ太さ、同じ長さのホースを購入し、両端にポールと同じキャプを付けたものを用意。それを真っすぐ垂らすとパッと見はポールと見分けがつきません。

中村さん
「ロンもそれをポールだと思い込んで、嬉しそう鼻に乗せて持って行こうとしました。その瞬間にポールに見せかけたそのホースをロンの首にクルっと巻いてやったんです。」

 

ロンが大好きなポールだと思って
鼻の上に乗せた次の瞬間に…
ポールを鼻に乗せたつもりが

 

ポールに見せかけたホースを
輪っかにしてクルっと首に巻いてやる
ホースを首に巻く

 

中村さん
「ロンは自分から輪っかに向かうのは凄く怖がったのだけれど、自分の首にかかっていたホースの輪はキョトンとして怖がらなかったのね。これを繰り返していたらついに輪っかを怖がらなくなりました! やがて自分からも首にかけるようになって、輪くぐりもできるようになったんです!」

ロンは体が小さくて身軽だったためジャンプが俊敏で、その輪くぐりは非常に見映えが良かったそうです。さて、ロンに関してはこれで「めでたしめでたし」なのですが、中村さんの下にはもう2頭の ”問題児” が預けられていました。それがミナミアフリカオットセイゴンタサンタです。

中村さん
「ゴンタはこんな名前やけど女の子です。鳥羽に来た時に入れられていた箱の番号が5番だったからゴンタとしました(笑)。ゴンタは臆病で物覚えが悪かった。できないワケではないのだけれど、他の子に比べて何をやらせても ”遅い子” でした。」

先輩トレーナーたちに「遅い」「鈍い」という烙印を押されゴンタは中村さんのところに…。実際、物覚えは良くなかったそうですが、一方で一度覚えた芸はいつまでも正確にこなしたそうです。抜群の安定感で「ショーで使うならむしろコッチの方がええんちゃう!?」と中村さん。

サンタは一緒にやってきたオットセイたちの中で最も体が大きかったとか。しかし、”餌を全く食べてくれない” という命に関わる大問題を抱えたまま中村さんのもとへやって来ました。(生きた魚をプールに放しておいたところ、それを捕らえて食べたことはあったとか。しかし、人前では絶対に餌食べようとしなかった)

中村さん
「人の手から餌を食べてくれないと所謂 ”馴致”ができない。いや、それ以前に餌を食べてくれなかった弱って死んでしまう。アシカは水を飲まないので餌からしか水分が補給できない。しかも体が黒いので真夏の炎天下ではすぐ脱水症、熱中症を起こしてしまうんです。」

テリーP
「それでどうしたんですか?」

中村さん
「寝てた。」

テリーP
「はい…???」

中村さん
「色々試したけど餌を食べてくれなくて、困ったなぁ…って、万策尽きて床に転がってたんや。」

寝転がったまま途方に暮れていた中村さんでしたが、ふと頭上に迫る物影に気が付きます。

中村さん
「なんとサンタが寝ているオレのすぐ目の前まで来とったんよ! そんなことは初めてやった! うわっ~と驚いてちょっと立ち上がったら、サンタはヒレアシでオレの顎をバシッと殴って水の中に逃げていきました。(苦笑)」

テリーP
「いきなり!?(笑) でもすごい進歩ですよね?」

中村さん
「うん。それで今度は寝転がったまま餌を待ってジ~ッとサンタを待ってみたんよ。そしたら近づいてきて餌を咥えてくれた! その時に分かったんです! ああ、アレやって!」

テリーP
「アレってなんですか?」

中村さん
「動物って目の高さが相手より上だとあまり警戒しないんやけど、相手の目の方が高いところにあると怖がるという習性や!」

中村さんは調査で野生のアシカのいる海で泳いだことがあるそうですが、海面付近にいるとアシカは泳いでいる人間を遠巻きに見てなかなか近づいて来きませんが、人間が水中に潜ると興味深そうに近づいてきて上から見下ろすのだそうです。(ちなみに ”アシカに上から見下ろされる” シーンを疑似体験できるのが中村さんが展示プロデュースしたサンシャイン水族館で、”頭上をアシカが泳ぐ” という「サンシャイン・アクアリング」でした)

中村さん
「目線の高さがどっちが上か? 凄く単純な話でした。人間って二本足で立つからサンタにしてみたら凄く大きく見えて怖かったんだろうね。」

中村さんは今度は匍匐前進でサンタに近づいて餌を渡してみたところ、ちゃんと食べてくれるようになったそうです。しかも、サンタはとても賢かったそうで、ひとたび餌を食べ始めたら一緒に鳥羽にやって来た(先行して芸を覚えていた)オットセイたちをあっという間に追い抜いてしまったとか。

さて、3頭の抱えていた問題を見事解決した中村さんは次の目標を見据えます。上司に次のように訴えたそうです。

中村さん
「『おちこぼれの3頭とおちこぼれのオレでショーに出させてくれ!』ってね!」

 

止まらない、全開ヒレアシトーク!
全開!ヒレアシトーク

 


 

3.”中村元 流” アシカショー

 

当時の鳥羽水族館のアシカショーでは次のような演目があったそうです。「アシカとトレーナーがステージの両端、上手と下手に分かれて輪投げを行い、トレーナーが投げた全ての輪をアシカにキャッチさせる。その際、空中に2コ以上の輪が浮いていなければいけない」…というもの。

テリーP
「輪投げおじさん…ですか?」

中村さん
「そう思うやろ! 20本とか30本の輪を連続して投げる…ってそれは誰の芸や?アシカの芸というより人間の芸やん!アシカの凄いところを見せるのがアシカショーと違う?」

中村さんの主張は正論も正論なのですが、当時の鳥羽水族館では ”連続輪投げ芸” が出来て初めて一人前のトレーナーとして認められ、アシカショーのステージに立てるという ”ならわし” があったそうです。

中村さん
「だから僕は言いました。輪投げ20本連続なんて出来ません!でもお客さんのウケだけは取れます!そして『アシカが凄い』というコトだけは必ずお客さんに伝えられます!って。」

中村さんはついに3頭を連れてショーステージに立つこととなりました。

 

水族館が見せるべきは
「トレーナーの輪投げ芸ではなく
アシカの凄さだ」と中村さん
さて、一体どんなショーを!?

中村さんがアシカ飼育の思い出を語る

 

中村さんが考えたショーのテーマは『ドジなトレーナーと賢いアシカ』。例えば、中村さんが輪投げをわざと何本か失敗する。するとそれを見たアシカが「しょうがないなぁ」と首で輪を拾い集めてきてくれる。或いは中村さんがボールをうっかり(これもわざとです:笑)プールに落としてしまうと、すかさずアシカがプールに飛び込み、そのボールに鼻に乗せながら泳いで戻ってきてくれる。

中村さん
「それを見たお客さんは『アシカは凄いなぁ~賢いなぁ、偉いなぁ~!』となるんよ。これこそが水族館が見せるべきショーやと思わん?」

当時の鳥羽水族館は会社の慰安旅行の団体客が多かったそうで、

中村さん
「特に大阪方面からの団体客はバスの中でお酒飲んですっかりデキ上がった状態でショーを見に来るから『ニイちゃんしっかりしぃや! それに引き換えアシカはエライなぁ~!』って期待通りの声援を飛ばしてくれるから凄くやりやすかった(笑)。そうそう、初めてのショーの時は、さすがのオレも緊張しとったんやろな? 『こんにちはー!』と勢いよく出て行ったらズデッーとコケたんよ!? あやうくプールに落ちるぐらいの勢いでマジゴケ。いやぁ~、お客さんにウケたウケた!」

客席:(笑)

中村さん
「あんまりウケたから二回目からのショーも全部転んでやったわ!(笑)」

客席:(笑)

リーP
「ますますアシカが賢く見えるんじゃないですかね?(笑)  きっとその酔っぱらいの人は家に帰って奥さんに『アシカは凄かった!』という話をしていたんじゃないですかね?」

中村さん
「しとったやろな! 『あの兄ちゃんはホントにダメやったけどアシカは凄かった』って。そう思わせることができたならオレの勝ちなんです!」(ドヤ顔)

 

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