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【 イベントレポート 】

多田将 presents 「『兵器の科学1 ・弾道弾』出版記念イベント」ライブレポート(20.11/14開催)

2021年03月16日

弾道弾とは? ~第1章より

 

第1章では人類史上最強の兵器と称される 『弾道弾』の定義 について書かれています。

「弾道」とは “弾丸の軌道” の意。弾丸は最初に発射エネルギーを与えられた後は地球の重力に引かれながら運動法則に従って飛んでいきます。弾道弾も最初に燃料の噴射により加速を行った後は(途中補助ロケットによる軌道修正などは行われるものの)全行程の大部分を重力まかせで飛んでいきます。

標的までに飛んでいってドーンというイメージから巡航ミサイルと混同しがちですが、弾道弾が「重力に引かれて落ちて行っている」軌道を描くのに対し、巡航ミサイルは飛行機のようにエンジンを噴かしながら任意の軌道を描いて巡航飛行をする(空気によって重力と反対方向の力である揚力を得ながら落ちないように飛んでいく)もので、両者は根本的に別物と言えます。

 

弾道弾と巡航ミサイルの違いの説明図
(クリック or タップで拡大)

弾道弾と巡航ミサイルの違い表した図

 

ところで、ちょっと脱線しますが、この本に登場する沢山の図ですが、「当初イラストレーターさんに発注する予定が、多忙を理由に断られてしまった(多田さん)」とのことで、大半の図を多田さん自らが描いたそうです。

多田さん
「ちなみにこの図( ↑ )はどうやって書いたと思いますか? 実はPower Pointで描きました(笑)。MS Officeの単純な図形を組み合わせで描いたのですが、巡航ミサイルなんてかなりソレっぽく見えるでしょ?(ドヤ顔)」

こんな風にパワポで絵を描いたかと思えば、後ほど紹介しますが、ごく簡単な “ぽんち絵” で済むようなイラストをわざわざCADを使って超正確な寸法で描き上げてみたりもしています。本書を手に取った方は、多田さんの渾身の作図にも注目してみましょう。

 


 

あなたも軍事評論家!?
あの国の発射実験を解説できる!~第2章より

 

「弾道弾」について技術的側面から書かれた本や記事は非常に少ないそうですが、その少ない中にも間違った記述が散見されるそうで、特にこの第2章で取り扱う『軌道』に関しては非常に間違いが目立つそうです。

多田さん
「しばしば『放物線軌道である』と説明されています。しかし、放物線軌道を描くには2つの条件を満たす必要があるんですね。一つは地球が平らであること。もう一つは高さによって重力が変わらないこと。」

例えばキャッチボールなら地球は平らと見なして良いし、重力も変わらないと言って良いのですが、さすがに弾道弾のような長大な射程と高い飛行高度ではそうはいかない。

多田さん
「だから『放物線軌道である』と解説している本や記事の著者は『計算をせずに書いています』ということを自ら告白しているようなモノなんですね。」

それをキチンと計算して正していこうというのが多田さんのこのシリーズ本の趣旨というワケです。

では、実際、弾道弾はどのような軌道を描くのか? ケプラーの法則から出発して、弾道弾の描く “軌道” を見ていきました。

 

弾道弾の軌道は
地球の中も含めた楕円軌道となる。
なお外側の楕円は人工衛星の軌道。
(クリック or タップで拡大)

楕円軌道を描く

 

弾道弾が楕円軌道を描くことを理解したら、次は与えられた発射エネルギーで最大の射程が得られる「最小エネルギー軌道」での発射速度・発射角度・最高高度・到達時間を考えていきました。

 

最小エネルギー軌道について
計算結果のグラフを映しながら

多田さんが分かりやすく解説。
最小エネルギー軌道の場合

 

ちなみにこの( ↑ )スライドのグラフは、ロシアのテイコヴォ(第54親衛ロケット師団)からペンタゴン(アメリカ国防省)をターゲットにした場合の計算例だそうです。(具体例が怖すぎる…:汗)

多田さん
「皆さんも附録を見ながら好きなところで計算してみてくださいね!」

客席:(笑)

弾道弾が秒速7km(マッハ20超え)というとてつもない速さで飛んでいくことや、宇宙ステーションの遙か上の高度1260kmまで到達すること、テイコヴォからペンタゴンまでの僅か1660秒(28分弱)で到達してしまうことなどがグラフとともに説明されていきました。

多田さん
「冷戦時代はこれが常時発射態勢にあったんですね。指令が来てから発射までは約1分です。だから本当に30分あれば世界が滅ぶような恐ろしい状態が長く続いていたんですね。ちなみにロシアとアメリカの2国は現在でもこの常時発射態勢を維持しています。」

背筋が寒くなるような話で “万が一” が起こらないことを願うばかりです。

さて、この「軌道」の章の中で、個人的に興味深かったのは「最小エネルギーでない軌道」、いわゆる ロフテッド軌道(通常よりも角度を上げて高く打ち上げる方法)や、ディプレスト軌道(逆に打ち出し角度を押さえて低い高度で飛ばす方法)と呼ばれるものについての話題。どちらもエネルギー効率は下がりますが運用に幅を持たせることができるそうです。

多田さん
「広大な国土を持つロシアは1万km近い射程の発射実験が自国内で出来てしまうんですね。アメリカも相当に広いですが、さすがに本土で1万km射程の実験は無理なので(アメリカが統治している)太平洋上の南の島の海域に向かって発射実験を行っています。しかし国土の狭い北朝鮮などでは大陸間弾道弾を作ったとしても発射実験を行うことができないんですね。そこで上に高く打ち上げて短い射程(1,000km程度)でテストをしています。それがロフテッド軌道というヤツです。」

 

ロフテッド軌道=青線と
ディプレスト軌道=赤線
(クリック or タップで拡大)
最小エネルギーでない軌道について

 

北朝鮮から日本海に向けて “飛翔体” が発射されると、テレビのニュースや新聞等に軍事評論家と呼ばれる人たちが登場し、その飛行高度や落下地点までの水平距離を元に「もし最小エネルギー軌道で発射した場合の射程距離は○○kmと考えられる」と解説を行ったりしますが、

多田さん
「あれは一体どうやって計算しているのかと疑問に思っていた人はいませんか? この本の附録を読んでもらえば、自分で計算して導くことが出来ます!」

ちなみにこの本の具体例では、ロフテッド軌道で最高高度4000km及び飛距離1000kmを達成した弾道弾を想定(これは北朝鮮の火星14号の発射実験の観測値であるとのこと)し、最小エネルギー軌道での射程を約8,700kmと算出しています。

多田さん
「大陸間弾道弾として定義される射程5,500kmを超えてきたんですね。これが火星14号を以って北朝鮮が初めて持った大陸間弾道弾と言われる所以です。」

ロフテッド軌道とは逆に発射角度を低く抑えて飛ばすのが ディプレスト軌道。地を這うような低い軌道は非常に大きなエネルギーを要しますが、迎撃側に探知されにくく、標的に素早く落とすことができるという利点があるそうです。

 

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